番傘とは?歴史や特徴を徹底解説!
番傘とは ─蛇の目傘との違いや、使い方は?
日本文化の象徴とも言える伝統工芸品「和傘」。
独特のデザイン・緻密な職人の技術などで、多くの人を魅了しています。
「番傘」は和傘の種類の1つです。名前を耳にすることが多いのではないでしょうか?
とはいえ番傘の歴史や特徴、使われている素材については、あまり知られていません。
本記事では、和傘の世界にはじめて触れる方に向けて、
番傘の魅力をわかりやすく解説します。
和傘の入門編としてお楽しみください。
和傘の種類
「和傘」とは竹骨と和紙で作られた傘のことを指します。
目的に応じて様々な種類・大きさのものがあります。
「番傘」は、日常生活で使用される雨傘の1つです。
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◆ 日本の伝統文化や行事で使用される和傘
- ◇ 「野点傘」野点の茶会などで使われる大傘
- ◇ 「差し掛け傘」神社仏閣などで使われる大傘
- ◇ 「踊り傘」舞踊などで使われる
- ◇ 「舞台用傘」歌舞伎などで使われる
- ◇ 特定のお祭りや行事で使われる和傘
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◆ 日常生活で使用される和傘
- ◇ 「番傘」シンプルで丈夫な雨傘
- ◇ 「蛇の目傘」細身で装飾性もある雨傘
- ◇ 「日傘」
番傘の歴史
「番傘」の歴史は17世紀後半にさかのぼります。
当時、大坂では荏油を塗った厚い紙と粗い竹を用いて製造された頑丈な紙傘が
「大黒屋の聾傘(つんぼがさ)」または「大黒傘」と称され、
円形の印が特徴的でした。
同じ時期、京都では「壺屋傘」と呼ばれる傘が製造されていました。
壺屋傘もまた強く頑丈な傘であり、これが「番傘」の原型となったとされています。
江戸時代中期になると、
商店が自店の名前を書いた傘を、来店客に無料で貸す宣伝方法が普及しました。
この商法を特に大規模に採用したのが、日本橋の越後屋です。
結果、多くの客を呼び込むことに成功し、
越後屋は江戸一の呉服屋に成長しました。
雨の日になると、店名と番号が記された傘が江戸市中に溢れ、
「番傘」という名前が定着しました。
借りた傘を返さないで使い続ける人々も少なからずいたようですが、
雨が降るたびに店名を広めてくれる効果となり、
傘代を宣伝料とみなせばまったく無駄ではなかったといいます。
「番傘」は地域によっては「問屋傘」とも呼ばれました。
語源は、傘問屋が大量に製造した傘から来ているとされています。
番傘の特徴
現在では、番傘は雨を防ぐためだけでなく、
傘に店の屋号を入れて、料亭やお寺などで室内の装飾や
差し掛け傘※としても用いられます。
番傘の特徴をいくつかご紹介します。
シンプルなデザイン
番傘には、一般的に白い和紙や無地の和紙が使用されます。
装飾的な要素は少なく、派手さはありませんが、
素朴で落ち着いた雰囲気を持つ
シンプルなデザインが特徴となっています。
持ち手(柄)が太い
番傘の持ち手(柄)には竹が使用されており、
他の和傘に比べて太くなっています。
和紙に油が塗られている
雨傘として使用できるように
番傘の和紙には、エゴマ油・アマニ油・桐油などが塗布され、
防水性が高められています。
番傘に使われる素材
和紙
雨の日に使用することを目的とした番傘は、次の2つの条件を満たす和紙が使われています。
- 雨に濡れても色落ちしない
番傘では基本的に白い和紙を用いますが、
色和紙を使う場合でも、
雨に濡れた際に和紙が色落ちし、衣服に色が付着する可能性があるため、
色落ちしない種類の和紙が使われます。 - 耐久性に優れている
番傘に使われる和紙は、
雨に濡れた後に乾燥するという過程を何度も繰り返すほか、
頻繁に折り畳まれます。
こうした状況に対応できるような強度が必要とされています。
油
番傘の和紙にはエゴマ油、アマニ油、桐油といった植物油が塗布されています。
これらの油はそれぞれ特性があり、季節や和傘職人によって油のブレンドを変えています。
竹骨
番傘の骨作りは太い竹を縦半分に割り、
さらに40~50本に割り分けることから始まります。
分けた竹の並び順がわかるように、目印を付けておきます。
次に、竹骨を隣り合うように組み立てていきます。
並び順を保つことにより、傘を閉じた時に元の竹に近い、美しい円柱の形になります。
こうした精巧な工程が、和傘の美しい形の秘訣です。
轆轤(ろくろ)
「轆轤(ろくろ)」とは、和傘の開閉する際に上下に動く、エゴノキという木から作られた重要な部品です。
轆轤(ろくろ)がなければ、傘を開閉することができないため、和傘の要(かなめ)となっています。
轆轤(ろくろ)を手作りしているのは、国内では岐阜の一人の職人だけです(2023年現在)。
この職人が製作した轆轤(ろくろ)は、全国の和傘職人に供給されています。
持ち手(柄)
番傘の持ち手(柄)には、竹が用いられています。
竹本来の素材感を活かしたシンプルなデザインが特徴で、
他の和傘と比べて太い形です。
繋ぎ糸
繋ぎ糸とは、番傘の竹骨同士を結び付けるために使用される糸です。
主に綿をより合わせた糸を使用します。
番傘と蛇の目傘の見分け方
「番傘」と「蛇の目傘」はどちらも和傘の一種で、雨傘として使用されます。
両者を混同される方が少なくありません。
番傘と蛇の目傘の違いを、簡単に見分けるポイントをご紹介します。
↓下図は「蛇の目傘」の部位やパーツを説明したものです。
「蛇の目傘」は基本的に「番傘」と同じように、竹の骨組みと和紙を用いて作ります。
「蛇の目傘」は装飾性の高さが特徴的です。対して、「番傘」はシンプルです。
和紙のデザインのシンプル具合
「蛇の目傘」の代表的なデザイン「蛇の目模様」は、傘を開いたときに和紙の模様が円を描くように広がります。
これが「蛇の目」のように見えることから「蛇の目傘」と呼ばれています。
当店では、蛇の目模様以外の蛇の目傘や無地の蛇の目傘も多く取り扱っております。
番傘は無地か、ごくシンプルな柄が多いです。
(↓左:番傘 | 右:蛇の目傘。傘を開くと、白く太い円が広がる)
持ち手(柄)のすべりどめと太さ
蛇の目傘は、番傘と比べて持ち手(柄)が細くなっています。
竹以外の素材でできた持ち手の場合、手で握る部分には、「籐(ラタン)」が巻かれているものが多いです。
竹製の持ち手を使っている一部の蛇の目傘と番傘では、竹の節がすべりどめになるため、籐がまかれていないものがほとんどです。
また、竹製の持ち手の番傘と蛇の目傘同士で比べても、番傘の持ち手に使われている竹のほうが、強度をもったシンプルなものが多いです。
(↓左:番傘 | 右:蛇の目傘)
竹骨と、全体のがっしり感
蛇の目傘は番傘に比べて竹骨が細く、
地域や仕様、時代によって、本数が44本、46本、48本、50本など様々です。
番傘より軽いものが多く、持つ人が疲れにくいというメリットがあります。
細い竹骨を補強するために「糸かがり」という技法が施されています。
糸かがりに使用される糸は、和紙の色や柄に合わせて自由な色が選ばれています。
かつて「岐阜和傘」が大量生産されていた時代には、生産効率を上げるため、赤や青の和紙に調和しやすい黄色の糸が使われていました。
対して番傘は、現在の岐阜産においては竹骨が多いものが主流で、糸かがりを施さないため竹骨に穴を開けていません。骨組みがしっかりしているので、傘自体の太さ、重さ、開いた幅が大きくなる傾向にあります。
(↓左:番傘 | 右:蛇の目傘
蛇の目傘は竹骨に糸の装飾が施されています)
石づきのあるなし
蛇の目傘のうち、持ち手(柄)が竹ではないもの(木など)では、持ち手(柄)の先端に「石づき」と呼ばれる金具が取り付けられています。
竹の持ち手になっている一部蛇の目傘や番傘では、石づきのかわりに竹の節を先端にして強度をだしているので、石づきがありません。
石づきとは、和傘を立てかける際に役立つものです。
(↓蛇の目傘にみられる、石づきの例。番傘にはない。)
洋傘は、たたんで立てておくときにてっぺんを下に、持つ部分を上にします。
和傘は逆です。
和傘をたたんで立てかけるときは
頭が上、柄の部分が下となるようにします。
てっぺんで竹骨をまとめている頭轆轤(ろくろ)の繊細な部品が雨水で濡れて劣化しないようにするためです。
石づきは、持つ部分を下にして床に置いたときに、持つ部分の先が傷まないように守ってくれるのです。
番傘や蛇の目傘の頭轆轤(ろくろ)には、
「カッパ(頭紙)」と呼ばれる防水素材やビニールのカバーが被せられています。
(↓番傘を上から見たところ)
止め具(=はじき)の数
蛇の目傘では、傘を開いた時に固定する
「止め具(=はじき)」という部分が2段階式になっています。
番傘でも2段階式のものもありますが、多くは1段階式です。
2段階式だと傘を狭めて使うことができます。
人ごみを通るとき、風が強いとき、狭い路地を通るとき、雪が降っているときに積もらないようになど、いろいろなシーンで役立ちます。
(↓左:番傘 | 右:蛇の目傘
蛇の目傘の止め具は、2段階式になっています)
番傘の楽しみ方
日本の風情を感じる
雨粒が和紙に落ちる音や、塗られた油から立ち上る香りなど、
番傘をはじめ和傘の雨傘には、
もった人だけが楽しめる日本の風情、独特の質感があります。
番傘を一つお持ちになれば、
雨の日が待ち遠しくなって、お出かけがより楽しいものになります。
ご注意いただきたいこととしては、
番傘は日傘利用に適していません。
防水効果を持たせるため、傘の和紙に油が塗布されています。
強い日差しに長時間さらされると、油が変質し、紙がぱりぱりになって破れやすくなります。
もし日傘として和傘を使いたい場合は、
油を塗布していない日傘専用の和傘を選ぶことをお勧めします。
結婚式の装飾や前撮りで「和」を演出
番傘や蛇の目傘を、
結婚式の会場内や受付スペースに飾ってみてください。
会場の雰囲気づくりや、和装での前撮り用のアイテムとして、和の趣がグッと上がります。
シンプルな番傘やカラフルな蛇の目傘は、和装の結婚式や前撮りで欠かせない人気アイテムとなっています。
番傘のシンプルで清廉としたたたずまいは、結婚式の神聖さを演出するのにぴったりです。
力強いフォルムなので、新郎が持つとかっこよく見えます。
また、大きいので1つの番傘の下に新郎新婦が寄り添っても絵になります。
※結婚式に関連する和傘については、こちらのコラムもご覧ください。
本当に良いものを長く大事に使う
「傘が壊れたら、新しい傘を買えばいい」「ビニール傘だから、なくしても問題ない」という方も多いかもしれません。
雨をしのぐだけが目的なら、特に番傘である必要はありません。
しかし良質な番傘を手にすると、大切に使いたいと自然に思えてきます。
物にあふれた現代だからこそ、
良質な和傘を持つことが、心の豊かさにつながるように思います。
素朴で落ち着いた雰囲気と、重厚感がある番傘にご興味がある方は、
番傘の一覧もぜひご覧ください。
まとめ
和傘の一種「番傘」の歴史や特徴について解説してきました。
番傘はシンプルなデザインながら、その制作過程は職人の技術と心血が注がれた逸品です。
雨が憂鬱に感じる日も、番傘を使えば気分が一変することでしょう。
ぜひ番傘を手に取って、魅力を感じてみてください。
和傘を購入するなら岐阜和傘専門店「和傘CASA」へ
岐阜県で唯一の和傘専門店
「和傘CASA」は、
岐阜市にある和傘のセレクトショップです。
岐阜市は、和傘の生産額が全国トップを誇る地域です。
伝統と技術が息づくまちとして知られています。
当店「和傘CASA」では、岐阜和傘の魅力を広く伝えるため、さまざまなデザインや機能性を兼ね備えた和傘を厳選して取り揃えております。
伝統的な技術と現代のニーズが融合した、
美しい柄や高い品質の岐阜和傘をそろえております。
和傘の魅力を存分に感じていただけるよう、
お客さま一人ひとりに寄り添いながら、
最適な和傘をご提案いたします。